2.1 技術の共通性格~技術とは何か

技術とは「人間生活に役立てる技(わざ)」である。つまり、人々の日々の問題、さらには社会の問題の解決に貢献するという、明確な目的を持っている。この定義は、抽象的な概念に煎じ詰めたものだが、現実の利用場面において個々の技術は具体的な姿形を持つ。本報告書では以下のものをすべて技術として扱う。

 

[1] 自然の事物を改変・加工するハードな側面と、組織をマネジメントしたり意図を正確・適切に伝達するといったソフトな側面の両方を含む。また、科学を応用したもの、科学の応用ではないもの、それぞれある。技術の多くは、自然界にある資源を科学に基づいて加工するものだが、語学、会話、表現など、ものを加工しない技術もある。

[2] 利用者が製品などを「使う」技術と、技術者が製品などを「作る」技術の両方を含む。「自動車運転技術」や「自動車製造技術」、「電気洗濯機の操作方法」、「携帯電話の利用術」あるいは「原子力発電技術」といった具合である。このように技術の内容を正確に明示しようとすれば、「…技術」、「…法」、「…術」などと表現する必要がある。ただし一般には「自動車」、「電気洗濯機」、「携帯電話」、「原子力発電」を技術と呼ぶことが多い。

技術は、問題解決の様々な手段を人間に提供する。例えば、遠距離の高速移動、という問題を解決するために、自転車(による移動法)、自動車(運転法)、鉄道(の利用)、船舶(の利用)、航空機(の利用)といった様々な技術が生み出されてきた。こうした技術はそれぞれ、タイヤや車輪、翼、エンジンといった個別の要素技術を持っている。以下では、これらに共通する技術の本質を、技術の共通性格として紹介する。利用者の視点から見ると、技術の本質を理解することが重要だからである。技術を開発する技術者にとっては、個々のエンジンの要素技術も重要だが、利用者視点から技術リテラシーをまとめようとする本報告書は、そうした個別技術の詳細には踏み込まない。

 

2.1.1 技術には利用者がいる

人は、問題を解決するために、技術を使って、何かを作ったり、運んだりする。使う時には常に、使用者や利用者がいる。また、技術は人間が創り出す。したがって、技術について考えるときは、技術の利用者、技術を創り出す技術者、技術と利用者や技術者の関係、といった視点が必要である。

 

2.1.2 技術は人工物を生み、人の能力を拡大し、社会と共に進化する

技術は人工物を生み出す。人工物とは、いわゆる物だけではなく、ソフトウエア、仕組み、システムを含み、自然物とは異なる。技術は自然界の様々な資源エネルギーを利用するが、技術自身は人類が作りだしたものであり、人間がいなければ技術も存在しない。

技術は人の能力を拡大するものである。道具の一つである梃子(てこ)は、人の小さな力を大きくする。帆船は風力という自然の力を利用し、馬車は馬という動物の力を人の利用に役立て、人の手漕ぎや車を引く力を拡大してきた。自動車、航空機も動力を用いて人の力を拡大する。最近は人の知識活動を拡張あるいは支援する技術が作られ、利用されている。ICT(情報コミュニケーション技術)がその代表的なものである。

技術は、技術以外の世界と、相互に関連し合い、技術の進歩が他の世界の進歩を促し、さらにそれが技術の進歩を促すというダイナミックな関係を築いていく。これを共進化と呼ぶ。例えば、社会の要請によって新しい技術が開発され、その新技術が社会の変化を促す。産業革命期の蒸気機関や織機・紡績機、製鉄技術はその典型であった。

 

2.1.3 技術はトレードオフとの戦いである

技術の利用や開発において、トレードオフの判断を頻繁に迫られる。トレードオフとは、両立できない、同時には達成できない要因を折衷させることである。このような時でも、何らかの解決策を見出す必要がある。典型例を挙げると、性能コスト安全性とコストはいずれも両立しないことが多い。完全な安全性を求めようとすると、莫大なコストがかかり、経済的に実現困難となる。といってコストばかりを重視し、安全性をないがしろにすることは許されない。したがって、どこかでバランスをとらなければならない。材料を選択する場合も、入手容易性、価格、望ましさ、廃棄物の量といった競合する価値の中から、最も望ましいと思われる組み合わせを選別することになる。

2.1.4 技術は複雑なシステムになっている

技術は、一部の単純なものを除いて、様々な要素から構成され、一つのシステムとなっている。一つのシステムは普通複数のサブシステムから構成され、そのシステムがいくつか集まって、さらに大きなシステムを構成する。システムの構成要素は、入力を受ける部分、内部サブシステム、結果を外部に出力する部分に分けられる。

図2 システムの概念図

システムは入力から出力まで段階を経て進行する(プロセスと呼ぶ)。また、システムは出力情報を入力に戻すフィードバックループで結ばれることが多い。出力情報を入力に戻すことをフィードバックと呼ぶ。フィードバックループで結合された部分は閉システム(クローズドシステム)と言われる。フィードバックは、システムを安定化し、自動化(省力化)することに役立つ。一方、フィードバックを持たない部分は開システム(オープンシステム)と言われ、安定化には人間の介在(制御)が必要となる。

複数の技術によって構成される「技術システム」は、相互に連結され、所定の目的を効率的に果たすよう使用される。新幹線を例にとると、そのシステムは、車両、レール、架線、駅、運行システム、予約システム、修繕、保守・点検・保全などで構成される。大規模なシステムにおいては、車両といったハード面より、運行システムなどソフト面が重要になる。また、よいシステムの条件として、信頼性冗長性、頑健性(ロバスト)が求められる。

図3 技術システムの例(新幹線)

 

2.1.5 技術の理解にはシステム論が有効である

技術はシステムの性質を持つから、その理解にあたってシステム論ないしシステム思考が有効である。システム思考は、対象となる事象やシステムから主要な要素を抽出し、要素間の関連性を考え、外部から入力があった場合に内部状態がどう変容し、その結果どのような出力を外部に出すかを体系的に考える創造過程である。したがって、システム思考は、複雑な実生活上の問題に対して、適切に妥協しながら論理と創造性を適用し、解決策を発見するアプローチである。システム思考法自身がソフト技術であると言える。

 

2.1.6 技術システムにはコントロールやマネジメントが必要である

複雑な技術システムは効率的かつ適切にコントロール(制御)あるいはマネジメント(管理)しなければならない。新幹線が安全かつ正確に運行されているのは技術システムが適切に制御・管理されているからである。

コントロールとは、そのシステムの情報を使い、人が行う手順や固有の手段に従って、入力やプロセスを操作し、安定化や目標を実現することである。コントロールは人間が介在する場合と、自動化されている場合とがある。自動化とは、制御の仕組みをあらかじめ技術システムに組み込むことを指す。技術の発展の結果として自動化が進み、技術の制御を意識することなく技術を利用できるようになった。この状況を技術のブラックボックス化といい、技術を知る機会が減る原因にもなっている。

マネジメントとは、作業を計画し、人を組織としてまとめ、監督するプロセスである。保守は、適切な機能の発揮とその維持、寿命の延長、性能の向上といった目的のために、製品またはシステムを定期的に検査し、サービスするプロセスである。改良・改善は、対象となるシステムを延命させるプロセスである。品質管理は、製品、サービスあるいはシステムが決められた基準を確実に満たすためのプロセスである。

技術の利用と、制御・管理は不可分である。技術の制御・管理に失敗した例というと、原子力発電所の運転やロケット打ち上げなど巨大システムの事故を想定しがちであるが、そればかりではない。身近に起こりうる交通事故も、技術システムの制御や管理の問題である。運転の仕組みや交通ルールなど、自動車の利用の方法を含めて制御してこそ、自動車という技術システムを管理したことになる。

ひとつの技術には必ず両面がある。自動車によって移動が便利になる側面と交通事故で損害を与える側面がある。便利な面ばかりを見て闇雲に技術の利用を推進するわけにはいかないであろうし、損害の面だけを見て利用を止めることもないだろう。適切なルールの下、損害を受けずに便益を享受できるように、技術システムを制御・管理することが重要である。

 

2.1.7 技術は安全が第一であり、デザインにより制御される

現在の複雑な技術は、すぐれたデザイン(設計によって成り立っている。人工物の製造から利用、管理、廃棄というライフサイクル全体を最適なものにする設計が求められている。また、技術の利用、管理にあたっても、設計が重要となる。

調和の取れた街づくりや、需要の変化に柔軟に応じられる交通システムなど、時代とともにチューニング(調整)できる。このように考えられているのが優れた設計と言える。一方、工芸品に見られるように、職人の試行錯誤の結果、優れたデザインが生まれることもある。

古くはナイロンの発見、あるいは2000年にノーベル賞を受賞した白川英樹博士の「導電性ポリマーの発見と開発」のように、失敗と思ったところから新しい発見発明が生まれることもある(これをセレンディピティーという)。街並みの風景のように隣近所との調和が結果として優雅な全体像を生むこともある。

設計の重要な役割は安全確保である。法律や業界によって様々な安全基準が定められ、それらに従って、技術は設計、製造、利用される。技術における一般的な安全の考え方は、想定される使用条件に耐える強度に、さらに不確実性を考慮し、想定外のことが起こりうることも見越し,安全率を掛けるというものである。それでも、地震における想定外の震度、温度などの環境条件の急変、耐用年数の超過、想定されていない使用法(悪用や乱用を含む)、設計を無視した施工など、安全率を超える事態が発生してしまうと、安全を必ずしも担保できない。技術に「絶対」や「リスクゼロ」はありえない理由の一つである。

安全性をより高めるために、フェイルセーフフールプルーフ(フールセーフ)といった設計手法が取られる。前者は、制御の二重系統化、ブレーカーによる過電流からの保護など、故障や事故が起きても安全性を保つ工夫である。この前提には、機械に絶対の安全はなく、確率的に事故は起こるという考え方がある。

一方、フールプルーフは、心理学、行動科学、人間工学などの知見を活用して、使用者の誤用を防いだり、仮に誤用があっても安全性を確保する設計上の工夫を指す。薬の誤投与を防ぐために色や形状を変えることや、ギアがパーキングに入っていないとエンジンを始動できない自動車などが、フールプルーフの例に当たる。

近年は、計算科学が発達し、安全性を高めるために、シミュレーションが活用されている。コンピューターの中で、自動車の衝突実験や気候の変化を再現する技術である。ただし、技術者が長年の経験から持っている知識(暗黙知)は、シミュレーションをしても得られないものであり、その点の留意が必要である。

以上の種々の取り組みによって、安全を確保し、事故を減らしたにも関わらず、別の安全問題が出ることもある。一つは、事故を経験する機会が減ったため、安全を考慮した設計の質が落ちてしまうという問題である。社会や技術はますます複雑になっており、安全のために考えないといけない条件は増え続けている。安全確保は永遠の課題となっている。

技術に関わる組織の経営においても安全の確保は重要であり、経営者を含めた管理職の責任は重大である。工場現場で無事故が続き、かつてあった事故の記憶が風化すると、安全のための訓練がおろそかになる危険がある。コスト削減の掛け声の下、安全のための設備が無駄に見えてしまい、保安員を削減し、安全設備の整備活動を省略してしまい、その結果事故を起こしてしまう。これは、技術そのものではなく、経営の問題である。

 

2.1.8 技術や技術システムは技術開発の成果である

技術開発イノベーションの原動力である。新製品や新システムといったイノベーションは、何らかの価値創造か問題解決のために進められる。その際に技術は不可欠である。最近の技術開発は多くが、市場化を目指しており、技術開発にかける時間の短縮が求められている。市場化とは、技術を製品あるいはサービスの形にして売買可能にするもので、ライバルとの競争がグローバルに行われる。

技術開発は、個人または集団が必要とする何かを、創造的能力を発揮して、作り出す行為である。技術開発は、明確な目的と目標の下、計画に基づき、適切な組織を用意し、適切なマネジメントによって進められる。成功のカギは、優れたリーダーシップにある。

技術開発の目的を達成するためには、必要条件の正確な把握が不可欠であり、それによって最適な開発プロセスの立案とマネジメントが可能になる。技術開発のリーダーは、最少の努力で最大の効果をあげることを目指し、目標と制約条件およびトレードオフを考慮しながら、技術要件の最適化を図り、製品のデザインや製作の進行中に起こるプロセスあるいは方法論を調整していく。

技術開発では、それを利用する人間にかける負荷を小さくするように(便利なように)改良する傾向がある。便利になることはよいことであるが、そのためにかえって、技術の間違った利用をしてしまうことも起る。また、技術に対する世代間のギャップも生じやすくなる。大人が新しい技術の操作に馴染みにくいため、デジタル・デバイドなどの技術ギャップが生じる、あるいは逆に若い人が過去の技術の履歴を知らないために、危険な利用をしてしまうこともある。最近では、ある程度の「不便さ」を意図的に組み込むことも行われる。

 

2.1.9 技術は移転する

技術は移転する。移転の一つは、技術開発における担い手の移動である。国から国へ、大学から企業へ、と担い手が場所を移して開発を続けることがある。移転のもう一つは、工学から医学へ、というような異分野間の移動である。

技術の移転は容易ではない。移転を成功させるには、新たな担い手が移転させようとする技術を改良・改善すること、そしてそれができる基盤が必要になる。国から国への移動の場合、各国の社会的な背景を踏まえ、“お国柄”に合わせて技術を変化させる必要がある。それができる基盤のひとつは教育された国民である。明治維新後の富国強兵策のなかで、我が国が西洋の技術を導入し、たちまち自家薬籠中のものとすることに成功した下地は、江戸時代にあった寺子屋などによる教育であったと言われる。

技術開発や技術移転にとって重要なもう一つの基盤は、知的財産権である。開発された技術やアイデアは知的財産権によって保護される。技術を移転する際には、知的財産権を侵害しないように、きちんとした契約を締結して実施する。知的財産権が生まれたのは、技術開発を進める意欲を喚起しつつ、多大な負担に耐えた先行開発者の権利を守りながら技術を普及させていくためである。

国家予算で開発した技術は従来、国の所属になったが、最近はバイドール法[1]等により、開発に直接たずさわった企業に帰属するようになった。これも技術開発を促進させる施策の一つである。

 

2.1.10 技術や技術システムの導入にあたってはアセスメントが必要である

技術システムのアセスメントとは技術の事前評価を指す。新しい技術や技術システムの導入や状況変化に応じて、将来に起こるかもしれない人体、環境、社会などへの影響や性能の変化を事前に評価する。新技術の導入に当たって行われる場合、テクノロジーアセスメントという。環境への影響に注目したものは環境アセスメントといい、必要に応じて環境規制が行われる。技術のアセスメントをする理由は、新技術がフロンティアを切り拓く一方で以前は無かった問題を引き起こす危険があるからである。例えば、堤防のおかげで、低地帯に住宅を広げることができたが、洪水や集中豪雨の際にしばしば大きな被害が起きる。マンションの高層化が進めば地震のリスクが大きくなる。乗り物がより高速になると交通事故が増加するかもしれない。このように、技術による利便性の向上と、一旦事故が起きたときの被害の大きさは関係がある。特に、技術によって自然環境にはない人工物を作り出す以上、自然環境とは異なる事態を招きかねないことへの理解と想像力が必要である。なお、事前に予想できない結果や意図しない結果がもたらされる場合もありうるので、モニタリング(監視)も必要になる。

【コラム4】技術の移転-八幡製鉄所に見る技術移転の歴史

黒船の来航で300年の太平を破られた日本は、生産技術が世界に大変遅れをとっていることに気付きました。まず、貿易収支の視点から繊維産業の育成が図られ、次いで産業の米と云われる鉄鋼技術の導入が計画されました。1901年2月5日官営八幡製鉄所東田第一高炉の火入れです。しかし設計能力日産160トンに対し平均76トンしか生産できず538日で操業中止に追い込まれ、1904年から始まった日露戦争に間に合いませんでした。その創業の涙ぐましい経緯を当時の現場技術者であった田中熊吉宿老は次のように語っています。宿老とは現場技術者に与えられた最高の永世称号で、田中氏は高齢で亡くなるまで高炉現場へ出て指導に当りました。

「・・・突然、農商務省の方から(作業)中止と決ったのでした。・・・、そこで西洋人は早速帰ってしまい、・・・。その後、1年ばかりしてまた作業を始めましたが、それは、日本とロシアとの間の空気が険悪化してきたからではなかったかと思います。・・・中略・・・、鉄分と鉱滓が分離できないで、1週間ほど自宅にも帰らずに、高炉の前にがんばっておりましたが、その時は服部(高炉の責任者)さんも一緒でした。」

「もう駄目だということで、農商務省に電報を打って報告された服部さんは、進退伺いを中村長官に出されたのであります。そんなことがあって、第3回目の吹き入れをすることになり、東京帝国大学の野呂先生がみえられて、薪を半焼きにしたものを炉底に入れて溶鉱炉に吹き入れを行ったのでした。ところがなかなかコークスに火が燃えつかない。そこで野呂先生がふいごを持ってこさせてブウブウ吹いたのですが、・・・。私は鍛冶屋の経験がありますので『それじゃ駄目だ、ふいごに蔽いしなければいかん』と建言しまして、・・・どうにか火がついて煙突からやっと煙が出るようになりました。こうしてどうにか出銑が出来るようになったわけです。・・・。」(八幡製鉄所 50年誌座談会)

2003年調べ、日本100とした指数日本鉄鋼連盟ホームページより

このトラブルが起こったのは、設計図から設備本体、さらに操業指導までをドイツに一括発注した結果、高給で迎えた“お雇い外国人”たる技術者がわが国の原料事情を考慮せず設計から建設・操業を行ったためでした。結局、この高炉は、野呂景義の指導で安定操業を実現しました。野呂には海外留学で理論と現場操業を経験し、釜石田中製鉄所の高炉を何とか稼動させる成功経験があったからです。なお、田中製鉄所は八幡の前に失敗した官営釜石製鉄所を引き継いだ製鉄所です。

このようにスタート時点で七転八倒した製鉄技術ですが、現在では図に示すように少ないエネルギーで鉄が出来る技術を保有するに至っています。これは、第二次大戦後精力的に導入した世界のトップ技術に、環境対策や省エネルギーなど独自の開発を加えた結果です。

日本の技術は現在、地球温暖化対策の一環として、世界中の製鉄所に移転されています。一貫製鉄所の建設では、1957年ブラジルのウジミナス製鉄所、1969年韓国の浦項製鉄所、1978年中国の宝山製鉄所などです。宝山製鉄所は山崎豊子さんの小説“大地の子”のモデルとなり、テレビドラマにもなりましたので記憶されている方もいらっしゃるでしょう。技術を供与した韓国、中国製鉄所の場合、初等的なトラブル無しに立ち上がり、先に引用した明治ではなく戦後の高度経済成長期の八幡と比較してもその2倍から3倍強の年間増加率を示しています。その違いは、周辺技術を含め技術全体のバックグラウンドが100年前、50年前と格段の差があり、そのシナジー効果が現れていることや、さらに、自由貿易を基調とする国際市場が拡大していることから、新鋭製鉄所の利点であるコスト競争力をアピールして販売先を広げることが可能であったことも効いているでしょう。

 

上海宝山製鉄所第一高炉火入れ式

「エンジニアリング事業20年の歩み」(平成6年)より

新日鉄・エンジニアリング事業本部(当時)

一般に技術移転は先の事例のように、かなり高度な技術や技能の背景が受け入れ側に存在しないと難しいようです。特に導入は組織内(企業、国など)に既存する技術を潰すことになります。技術の将来性評価を含め、関係者のモラルダウンなどを考慮しつつ慎重に決める必要があります。

 

[1] バイドール法とは、米国で1980年に制定された法律で、連邦政府の資金で研究開発された発明であっても、その成果に対して大学や研究者が特許権を取得することを認めたもの。研究開発成果を広く活用できるようにすることで、産学連携の推進や、中小企業による公的研究への参加促進を目的とする。同法律が定められる以前は、政府資金で研究開発された特許権は政府に帰属しており、研究開発の成果が産業界に十分に活用されていないという批判があった。日本では、平成11年(1999年)に産業活力再生特別措置法の第30条で定められた内容が日本版バイドール法とされている。これにより日本でも米国と同様に、政府から研究委託された研究者が特許権を取得することができるようになり、受託者が中心となって技術移転が進められるようになった。