1.4 技術リテラシーの利点

技術リテラシーは、我々すべてがすでに何らかの形で身に付けているものであり、我々が生きていく以上、引き続き充実させていくべき素養である。一人ひとりの人間にとって、技術リテラシーは大きく三つの利点をもたらす。夢を実現できる、賢く生き抜ける、社会の発展に貢献できる、である。これら三点はそれぞれが独立したものではなく、現実においては重なり合っているが、以下では一つひとつ見ていくことにする。

 

1.4.1 夢を実現できる

エジソンはなぜ電球を発明したのだろうか。夜も明るい生活ができれば便利だと考えたのだろうが、おそらくそれだけではあるまい。電球という新しいものを生み出すことに喜びと興奮を感じていたはずである。初めて光り輝く電球を見た先人のことを想像してみよう。大きな驚きと感動があったに違いない。

豊饒な技術の世界に慣れている我々は忘れがちであるが、少し考えてみれば、これまでの人生の中で、何らかの技術に接し、感動したり、わくわくした経験があるだろう。人によってその経験は異なるが、生まれて初めて飛行機や電車に乗った時、初めて海外の知り合いと電子メールを交換した時、ワード・プロセッサーを使って綺麗な年賀状を自宅で印刷できた時、あなたはどのように思われたであろうか。

人間は「こんなことをしたい」「新しいものを創ってみたい」という夢を抱く。技術者・開発者、起業家、芸術家、いずれも創造意欲を持っている。技術を生業とする技術者・開発者は、技術の利用者を常に意識し、利用者がさらに便利になる技術を生みだそうとする。同時に、技術者・開発者は自身の夢や好奇心に牽引されながら、ものを作る楽しさと、いい技術を創造する達成感を味わっている。利用者が技術に感動するのは、便利であることに加え、技術者の夢を共有できるからである。

人のように動き話す、人型ロボットをご覧になったことがあるだろう。未完成の部分が多く、まだまだ実用には適さないのであるが、それでも歩き、階段を上り下りし、身振り手振りをする人型ロボットの姿は、技術者にとっても、一般の人にとっても、何かわくわくさせるものがある。人型ロボットは誰もが夢みるものだからである。

技術リテラシーを充実させることによって、こうした楽しい、やり甲斐のある仕事に取り組むことができ、優れた技術を開発し、達成感のある生き方ができる。人型ロボットは、センサーなどエレクトロニクス、歩行のための機械部分、全体を制御するコンピューターとソフトウエア、といったように、複数の技術の粋を集めたものである。複数の専門分野の技術者が一定の技術リテラシーを備えていれば、専門を超えた会話が可能になり、人型ロボットという共通の夢に挑戦できるようになる。

我々人間は長い歴史の中で、膨大な技術を生み出してきたが、人型ロボットをはじめ、技術の世界にはフロンティアがまだ広がっている。人間が夢を見続ける限り、技術の世界も広がり続ける。ハイテクに限らず、昔からあるものづくり技術においても、刺しても痛くないほど微細な注射針が作られるなど革新的な試みが行われている。

自然な技術リテラシーが身に付いていることは、技術に関する好奇心を高める。好奇心があってこそ、新しい技術への関心が広がり、同時に新しい技術がもたらすかもしれない負の側面にあらかじめ気を配ることができる。

一方、起業家、芸術家、生活者にとっても、技術リテラシーがあれば、優れた技術を使いこなし、自分の夢に向い、やりたいことの実現に取り組み、達成感のある生き方ができる。各種のスポーツ用具の技術改良によって、スポーツ選手は自身の能力を最大限に引き出し、記録という夢に挑戦できる。パソコンを操作するための音声読み上げ技術が生まれたことで、視力の弱い人も晴眼者と同様に、パソコンを使い、やりたいことに取り組める。

パソコンに代表される、ICTはますます重要になっており、インターネットを使うことによって、人々は自分自身の情報を世界へ発信できるようになった。いずれの場合も、人々は技術リテラシーによって、その技術を使い、さらにその技術の仕組みを知ることによって、やりたいことを実行に移していける。

さらに、技術リテラシーを持つことで、技術者と利用者の双方がコミュニケーションをとりやすくなる。インターネットを仲立ちとして、「こういう製品を作って欲しい」と希望する利用者が集まり、メーカーに希望を出し、それに応えてメーカーが実際に製品を作る、といったことまで行われるようになった。技術者と利用者が連携して、いいものを生み出し、技術を発展させていくことは、双方に深い満足をもたらす。

 

1.4.2 賢く生き抜ける

夢を実現するために技術者が技術リテラシーを持つのは分かるが、技術の利用者は難しいことを知らなくてよいのではないか、むしろリテラシーが乏しい人であっても技術を簡単に使えるようにすべきではないか、と疑問を持たれる方がおられるだろう。確かに、「誰でも簡単に利用できるようにする」というのは技術が目指す方向の一つである。しかし、どれほど技術が進んでも、利用者の技術リテラシーを不要にするところまで行き着くことはない。

そもそも、技術は利用者のためにある。ところが前述の電気炊飯器と火による飯炊きの関係のように、利用者が新たな技術の導入によってかえって利用方法の選択の制約を受ける、といった現象がともすると起こる。技術リテラシーがあれば、利用者は日常の様々な問題をより効率的に、しかも主体的に解決できるようになる。技術について自分で判断でき、技術に振り回されなくなるからである。

技術リテラシーがある人は、日常生活である問題にぶつかったとき、どのような道具や技術を使うとよいのか、どんな技能が必要なのかを、自分で考え、自分で選択でき、本当に必要なものだけ入手するようになる。我々は多種多様な電化製品に囲まれ、便利な生活を送っている。技術リテラシーがあれば、自分に最も適した電化製品を選び、美味しい料理を作れる。健康によい素材を選んだり、エネルギー効率のよい電化製品を使いこなすこともできる。

技術に関するいくつかの原理原則を知っていれば、異なるメーカーの電化製品を複数使っても、効率よく安全に使え、何らかの危険があった場合、それを回避し、不慮の事態にも対処できるはずである。技術リテラシーがあれば、製品の使用説明書(取扱説明書)に書かれている注意事項に関心を持ち、その意味をよく理解できるようになる。電化製品は使い方によっては火災や室内空気汚染の原因になり、人に害を与える。厚生労働省の人口動態統計によると、2005年において家庭内事故死は交通事故死よりも多い。にも関わらず、使用説明書の注意事項が丁寧に読まれているとは言い難い。

身の回りで使っている機器が壊れた場合、自分で直すことができれば、それが一番早く、かつ安上がりである。便器に水を流す機構一つとっても、技術革新が進んでおり、中の構造は一昔前とは様変わりしている。中の構造まで知っていれば、故障した時、自分で直せる範囲か、専門家を呼ばないといけないのかを判断できる。

技術リテラシーが足りない場合、他の人から押しつけられた解決策や道具を使わざるを得なくなる。場合によっては、必要以上の機能を持った高額の道具を購入してしまうかもしれない。もっともまずいのは、電化製品を水回りの側に置くなど、間違った取り扱いをして壊してしまったり、自分の生命を危険にさらしてしまうことである。

医薬品の発達によって、人類の寿命が延びた反面、多数の薬が出回り、薬害という問題が起きている。医療や薬という技術に関して、一定のリテラシーがあれば、薬を誤飲する可能性は下がる。テレビ番組に時折、登場する「××を食べるとこんな効果がある」といった俗説に惑わされないようになる。

技術リテラシーは子供から高齢者まで、万人が身に付けておくとよい。とりわけ子供にとっては、身の安全を守ることに大いに役立つ。炎を触って熱さを覚えた子供は、注意深く火を扱うようになる。子供の成長過程に合わせて、技術に触れさせることにより、自然な技術リテラシーが身に付く。

技術リテラシーがあれば、見聞きする事象の中にある因果関係を把握し、ブラックボックスになっている技術の中を想像できる。したがって、将来起こることを想像し、予測する力を育てる。この力も技術の世界を生き抜くために有用である。工場での事故を本質的に防止するには、工場の現場にこうした想像力を取り戻さなければならない。

【コラム1】知っていますか?家電製品の禁止マークのあれこれ

電気製品に限らず何か器具を買うと取扱説明書が付いてきます。説明書の多くは右のような「注意表示」ページから始まっています。これらは非常に重要な情報なのですが、説明書によっては、こうした表記が何ページも続くので、肝心の動作説明にたどり着く前に読むのがいやになってしまい、注意表示も動作説明もどちらも読まれない、という問題があります。

家電製品の注意表示は大きく分けて警告表示と絵表示の二種類があります。警告表示には、無視した場合の傷害や災害の程度に応じて、危険、警告、注意の三通りの表示があります。表示を無視して誤った使い方をするとケガをしたり火災などが発生したりすることがある、と警告しています。

絵表示には製品の取り扱いにおいて

・その行為を禁止する記号;

・発火、破裂、高温に対する注意を喚起するための記号;

・指示に基づく行為を強制する記号;などがあります。いずれも、してはいけないことやすべきことがシンボルとして表現されていて、日本語を読めない外国人にも意図が伝わります。道路の交通標識とも通じるところがあるでしょう。

ページを埋め尽くす警告を読むのは面倒と思いますが、ここに示した絵表示の説明を読んでみると、“な~んだ”と思うものばかりではないでしょうか。そう思うことが技術リテラシーです。 

濡れた手に×印 。水滴が飛び散った器械に×印。感電したことのない人に説明するのは難しいのですが、100V(ボルト)の電源につながっている器械に濡れた手で触ることは大変危険です。そのことは成長する過程でいやと言うほど聞かされたのではないでしょうか。

水滴がついた器械に×を付けた絵表示は、器械の方を濡らしても危険だと告げています。二つの絵表示に共通する原理は「水が電気を通す」と言うことです。本来なら電気を通しにくいものでも濡れると電気が流れてしまいます。電気が“流れる”対象が人なら感電です。電気抵抗のある物体に電気が流れてしまうと熱を発し火事の原因になります。

取扱説明書の冒頭に禁止や注意事項のページが付くようになったのは、平成6年7月1日からです。この日、法律第85号によって「製造物責任法」が施行されました。ここには「製造業者等は、その製造、加工、輸入した製造物であって、その引き渡したものの欠陥により他人の生命、身体又は財産を侵害したときは、これによって生じた損害を賠償する責めに任ずる」とあります。

本法に言う欠陥とは「当該製造物の特性、その通常予見される使用形態、その製造業者等が当該製造物を引き渡した時期その他の当該製造物に係る事情を考慮して、当該製造物が通常有すべき安全性を欠いていること」(2条2項)であり、一般的に以下のように分類されます。

・設計上の欠陥 (設計自体に問題があるために安全性を欠いた場合)

・製造上の欠陥 (製造物が設計や仕様通りに製造されなかったために安全性を欠いた場合)

・指示・警告上の欠陥(製造物から除くことが不可能な危険がある場合に、その危険に関する適切な情報を与えなかった場合。取扱説明書の記述に不備がある場合などが該当する)

ただし、製造物責任法は一方的に消費者の側に立っているわけではありません。製造物の欠陥に起因する損害賠償請求に関して、被害者に過失があれば過失相殺されることがある(民法722条2項)としています。従って利用者は取扱説明書に従わなければなりません。といって器具の一つひとつについて説明書を読み、内容を記憶して使うことは大変です。

ここで、使う技術の根底にある共通の原理原則を理解する重要性が分かります。原理原則をおさえておけば、殆どの器械に関する注意事項は“そんなことはわかっている”で済むからです。技術リテラシーにおいて、単に行為の習得だけではなく、その背後にある仕組みに想いを馳せて欲しいとしているのはそのためです。日常生活で出会う技術の多くは、器械など人工物を介して使われます。その本来目的と異なる作用結果(感電や発火など)を及ぼす可能性を意識し、回避の心構えをすること、これが技術リテラシーの基本なのです。

【コラム2】“畳の上”と云えども安全ではない

厚生労働省の人口動態統計によれば、2005年における死亡者総数は108万3796人でした。そのうち、家庭内事故死は1万2781人で、驚くことに交通事故死の1万28人よりも多かったのです。家庭内事故死の原因を見ると、60%弱が不慮の窒息・溺水、20%弱が転倒・転落(主に幼児や高齢者)、約10%が煙・火及び火災、数%(600人弱)がその他有害物質による不慮の中毒や熱及び高温物質との接触となっています。2007年にも、暖房器具の不備による事故が社会問題になりました。

2002年9月とやや以前になりますが、独立行政法人国民生活センターが7タイプの暖房器具の安全性、快適性、経済性をテストし、タイプによってかなりの差があったと報告しています。安全性について見ると、温風温度が100℃を超えるなど、かなり高い器具がありました。火傷、脱水症状や低温やけどのおそれがあるので高齢者や乳幼児がいる場所で利用する際には注意が必要です。室内空気汚染や室内温度の均一性など、快適性の指標にもタイプによる差異がありました。経済性についても同様で、購入・設置費用は、ファンヒーターの6万~7万円から電気床暖房の65万円まで幅があり、1カ月のランニングコスト(利用にかかる費用)にも差が出ました。器具の耐用年数の目安は、エアコンやファンヒーターが10年、床暖房は30年となります。こうした結果から同センターは、購入の際には安全性、快適性、経済性を総合して考え、各器具の特徴をよく知った上で、賢く選び、注意を守り、快適に使用して欲しいと呼びかけています。

賢く選ぶためには、製品や設備の仕様とその意味を理解する必要があります。注意を守るためには、使用説明書を読むことですが、全てを記憶することは不可能です。それでも不慮の事態に対応できるように、指定された使用法を理解しておくべきでしょう。

国民生活センターは消費者へ呼びかけるとともに、器具メーカーへの改善要望として、給油タンクを外すと自動的に消火する給油自動消火装置を石油ファンヒーターにも付ける、操作が簡単で油漏れの危険の少ないキャップを付ける、やけど事故防止のため温風の吹出口の金属部分を植毛加工する、などを挙げています。

器具メーカーへの要望をもう一歩進めると、「ユニバーサルデザイン」という考え方にたどり着きます。これは、身体に余計な負担を掛けず、幼児から高齢者まで誰でも使いやすい工業製品を作ろうというものです。ユニバーサルデザインには7つの原則があります。

1. 誰にでも公平に利用できること

2. 使う上で柔軟性が高いこと

3. 使い方が簡単ですぐ分かること

4. 必要な情報がすぐ理解できること

5. 単純なミスが危険につながらないこと

6. 身体的負担が少ないこと

7. 様々な身体に対応できる寸法や空間を確保すること

具体例として、パソコンではキーボードの配列や周辺機器との接続方法に関して共通化がかなり進んできました。住宅であれば、ドアノブやレバーハンドルなど、手に触るもの、多少力が必要なものは、ユニバーサルデザインになっていると使いやすいでしょう。逆に共通化がされていないと生活の中で不自由を感じることになります。他人のパソコンを使う際、操作性の違いから簡単な作業も出来ないといったことは誰でも経験することです。なお、水道栓の開閉レバーは上下の機能が逆のものが共存し、しばしば混乱を招いていましたが、平成12年度以降JIS規格では水を出す時は上げるという操作に統一されました。

表示や順序を誰にでも分かるような一定のルールの下でデザインすることで不自由さが解消されることは、家電製品の注意表示の例でも理解できるでしょう(コラム1「知っていますか?家電製品の禁止マークのあれこれ」参照)。

ユニバーサルデザインとは、技術リテラシーがなくても使える製品や技術を開発することでもあります。しかし、全ての利用者の要望から共通項を見出し、これらを全て満たすことなどあり得ませんから、やはり一定の技術リテラシーが利用者に必要となるでしょう。

 

 

1.4.3 社会の発展に貢献できる

人々は技術リテラシーを持つことにより、協力し合って、社会の発展に貢献できる。一例として、技術は人類の知識を豊富にする。コンピューターの発明により、科学の世界で考えられた様々な仮説を高速計算によってコンピューター上で検証することが可能になってきた。例えば、月が誕生した経緯に関する仮説を、コンピューター上で検証する試み(シミュレーションと呼ぶ)が行われており、また、地球温暖化についてもシミュレーションが行われ、世の中に警鐘を鳴らしている。

技術によって、人は社会の問題解決に貢献できる。その際、技術リテラシーがあれば、社会の構成員たる我々が主体的な判断を下せるようになる。現代社会は、様々な技術を利用して成立しており、どの技術を採用するか、例えば、鉄道中心の交通体系とするか、自動車中心とするか、といった様々な選択肢があり、選択によって社会自体が大きく変わりうる。

都市を例にとれば、都市計画、交通計画を見直す際に、一握りの人達で決めてしまうのではなく、専門家、一般住民、識者など様々な人達が意見を交換し、よりよい全体計画を描くことが望ましい。デザイン、トレードオフといったことへの理解、すなわち技術リテラシーがあれば、多くの人達が建設的議論をすることが可能になる。

技術リテラシーがあれば、個人の夢、個人の賢い生き方、社会の持続的発展という、場合によっては矛盾する案件をなんとかバランスをとって対処していけるようになる。自動車の進化を考えてみよう。格好いいスポーツカー、スピードが出て運転も楽しくなる車、大勢で楽しく乗れる車、燃費のよい経済的な車、セカンドカーとして便利な車、というように車の進化は人々の生活を豊かにしてくれる。

しかし便利だからといって、人々がより大型の車やセカンドカーを保有するようになると、社会全体としては、より多くの二酸化炭素が排出され、地球温暖化を進めてしまうおそれがある。一台一台の車の燃費がよくなって排出する二酸化炭素の量が減ったとしても全体は良くならない。

ある人の夢はスポーツカーを保有することかもしれない。しかし、社会の持続的発展のためには、環境負荷の少ない車を保有すべきかもしれない。この矛盾に対処するためにも、技術リテラシーは役立つはずである。

技術リテラシーを持つ利用者や消費者は、技術者や専門家へ、技術に対する意見や評価を伝えることができる。これを「フィードバック」と呼ぶ。技術が発達してきた歴史を振り返ると、利用者から専門家へのフィードバックが常にあった。改善につながる適切なフィードバックがあってこそ、社会全体で豊かな生活を享受できる。消費者からメーカーに対するクレームも、新商品の開発や製品の改良につながっているのである。

技術に関する様々な情報は、伝承(言い伝え)として社会に保存されている場合がある。ある技術が社会に危機をもたらす可能性が出てきた時、技術リテラシーがあれば、伝承をひもとくことができ、かつてあった同様の危機にどう対処したのか、先達の知見を利用できる。

技術リテラシーは、技術の専門家や社会のリーダーにとっても重要である。技術の専門家においては、様々な技術が相互に依存する関係にある中で、専門的な知識だけではなく、一通りの技術に関する基礎的知識を身に付けておく必要がある。実際、複数の専門技術を融合し、新たな価値を生み出す動きが顕著になってきている。専門家全員が公約数としての技術リテラシーを持つことで、共同作業がやりやすくなる。

一例として、体内の様子を撮影するMRI(磁気共鳴画像装置)は、電気、機械、光学、人間工学、医学といった分野の技術者と専門家が、新たな技術を目指した結果、創造された複合システムである。複合システムを作るために、個々の専門家は自身の専門領域で探求を進めるとともに、専門家同士がコミュニケーションを深めていく。

専門家が、社会の変化や自らの必要に応じて新しい技術を身に付けていかなくてはならない場合にも、技術リテラシーは役立つ。技術に関する専門知識を必要に応じて他者へ伝達する場合においても、共通言語としての技術リテラシーがあればやりやすくなる。

社会のリーダー層における技術リテラシーの重要性も忘れてはならない。実際、リーダー層が様々な判断を下す際、技術への目配りを怠ることは危険である。社会に技術が深く入り込んでいる現代において、技術とまったく無縁の判断というものは、まずあり得ない。リーダー層に技術リテラシーがあれば、技術が社会に及ぼす影響、種々のトレードオフを勘案し、物事を判断していける。