1.3 万人が知るべき“公約数”

本報告書でいう技術リテラシーには、重要ないくつかの技術が生まれた理由やその仕組みを理解することに加え、あらゆる技術に共通する性格を理解し、技術と社会の関係を知ることを含む。複雑な現代社会において、全ての技術知識や技能を一人ひとりが習得することは現実的ではないが、「公約数(必要最低限の共通項)」としての技術リテラシーであれば誰でも身に付けられる。

利用者も、技術者も、万人が知っておくべき公約数としての技術リテラシーがあれば、利用者と技術者がコミュニケーションを取り合い、協力して、豊かな世界を追求することが可能になる。技術の出発点は「人が豊かに暮らせる」であるものの、それが一人だけの豊かさを追及することであってはならないし、そのようなことはそもそも不可能である。環境問題に顕著であるように、周りの人々、ひいては世界や将来の世代をも含めた豊かさを、利用者も技術者も視野に入れる時期が来ている。

誰もが知っていればよいという技術リテラシーの公約数はそれほど多くはないと考えられる。報告書では「必要が生じた時に、より深い知識や能力を効率的に獲得するための基盤」を公約数として想定した。具体的には、「システム」「デザイン」「トレードオフ」「マネジメント」といったいくつかのキーワードとして表現した。

これらの言葉が意味する「技術に関わる方法論と能力」は「問題解決の方法論と能力」であり、技術者ではない人々にとっても有意義なものである。キーワードに込められた技術の共通性格と舵取りの勘所を理解すれば、我々は主体的に技術を評価し、選択し、利用し、現代社会の中にあって引き続き豊かに生きていけるはずである。

分からないことがあっても、技術の素養があれば、互いに教え合い、助け合い、補い合える。最重要事なので繰り返すが、技術の利用者と、技術の担い手である技術者の間における密接なコミュニケーションは、技術の舵を取っていく上で必須である。その際、「技術は正負両面を必ず持つので、そのバランスを常に考える」というトレードオフの概念を、技術者と利用者が理解していれば、技術をさらに有効かつ安全に使っていけるであろう。大げさな表現をお許し頂ければ、技術リテラシーは人々が共に生きていくために使う共通言語なのである。