1.1 その豊饒な世界

ざっと見ただけでも、技術が実に豊饒(ほうじょう)な世界を形成していることがお分かりだろう。技術とは、人々がよりよく生きるための技(わざ)のことであり、身の回りにある道具や機械の使い方から、社会・地球全体を支える大きな仕組みの準備・利用に至るまで、多種多様な内容を含んでいる。技術を生み、技術を使いこなすことにより、人々は豊かに暮らせるようになった。

豊饒な技術の世界を再認識頂くために、本報告書においては、「技術用語俯瞰図」を作成した。冒頭の図をご覧頂きたい。一人の個人を図の中心におき、「暮らす」「食べる」といった個人の日々の活動を豊かにするために、どのような技術が使われているかを例示した。

個人は社会の中で生活を営んでいる。その社会を支える技術の例をさらに周辺に表記し、技術の全体像を俯瞰できるようにした。技術には必ず利用者がいる、このことを強調するため、代表的な技術を利用者を中心に整理して俯瞰図に表記し、エレクトロニクス、機械、素材、エネルギー、ICT(情報コミュニケーション技術)、農業といった分野ごとに個別技術を示すやり方はとらなかった。

膨大な技術群はすべて人間が工夫して生み出した技(わざ)であり、技術によって生まれた人工物は自然界にはもともと存在しなかった。人間が地球に登場してから今日に至る長い歴史の中で、人間は技術を生み出し、発展させてきた。自らの手を動かして使う道具、手作業を自動化した機械、複数の機械からなる大がかりな工場や設備、さらにはコンピューター・ソフトウエア・通信ネットワークを組み合わせた社会システムに至るまで、長い歴史を持つ技術と生まれて間もない技術とが現代社会の中で共存している。

現代に生きる我々は老若男女を問わず全員が、豊かに生きるために沢山の技術を使い、沢山の利益を得ている。我々は様々な技術が織りなす豊かな世界に住んでおり、地球上のどこを探しても、技術と無縁の生活をしている人はいない。我々全員は、技術に関する何らかの知識や、技術を使いこなす何らかの技能を既に身に付けている。

技術に関する知識、技術を使うための方法論、実際に技術を使いこなす能力(技能)をまとめて、本報告書では「技術リテラシー」(技術の素養)と呼ぶ。リテラシーとは、読み書きソロバンを意味する。いささか乱暴なことを言えば、読み書きソロバンができない人がいたとしても、技術リテラシーをまったく身に付けていない人はいない。繰り返しになるが、現代社会に生きる我々は、意識をしているかどうかはともかく、技術の世界に暮らしており、何らかの技術リテラシーを身に付けている。