まえがき(2008年6月)

・利用者を中心に議論

「技術リテラシー(技術の素養)」の報告書をまとめるにあたって、技術専門部会は「日常生活でごく普通に技術を使っている利用者に技術リテラシー(技術の素養)がなぜ必要か」という質問から出発した。「利用者がいる」ことが技術の特徴だからである。常に利用者を中心において議論を進め、技術の本質や技術用語を説明する際には、何のために、誰のために使われているのか、という点から記述するアプローチをとった。科学的な原理を述べその応用として技術の姿を示す従来の記述方法では、技術リテラシーを説明しようとしても限界があるためである。勿論、既存の文献は大いに参考にしており、本報告書は先達の知見の上に成り立っている。

 

・技術用語の俯瞰図を作成

「利用者中心で考える」という基本方針に沿って「技術用語俯瞰図」を作成した。一人の利用者を図の中心に置き、「暮らす」「食べる」といった個人の日々の活動を豊かにするために、どのような技術知識(技術用語)が必要かをまず考え、さらに個人が生活を営んでいる社会を支える技術を洗い出し、全体をまとめようと試みた。技術用語俯瞰図によって、「我々は皆、多種多様な技術を日々利用している」という事実を浮かび上がらせることができた。身の回りにある道具を使うことから、発電所のような大型かつ複合型の技術システムに至るまで、あらゆる技術は、利用者を想定して生み出されている。だからこそ、どのような技術を創り出すのか、すでにある技術をどう発展させていくか、あるいは制限するのか、といった意思決定に際し、利用者ができる限り関与することが望ましい。技術リテラシーが求められる所以である。

 

・技術リテラシーを構成する三要素

技術リテラシーは、技術に関する知識技術を使うための方法論、そして実際に技術を使いこなす能力、の三要素から構成される。本報告書において技術リテラシーの内容をこのように整理した。

リテラシーに読み書きという意味がある通り、基本的な技術用語の意味を知ることと、その用語が使用される文脈を理解することは、ともに技術リテラシーの要素である。さらに、色々な技術に共通する「技術の性格」を理解し、技術と社会の関係や、技術の長大な歴史を知ることも欠かせない。もちろん、万人が個々の技術の詳細まで深く理解する必要はない。

技術は実践であるから、技術を使いこなす方法論を体験し、能力として身に付けることもまた重要であり、それらも技術リテラシーに含まれる。知識を持つにとどまらず、身の回りにある技術をうまく使ってこそ、人々は豊かに暮らすことができるからである。

 

・万人を結ぶ「公約数」としてのリテラシー

技術は何らかの問題を解くために生み出されるものであるから、技術を使うための方法論と使いこなす能力は、「問題解決の方法論と能力」と言い換えられよう。これは、技術者はもちろん、ごく普通の利用者にとっても有意義な能力である。誰もが知っておくとよい「公約数(必要最低限の共通項)としてのリテラシー」があれば、利用者と技術者がともに問題解決の方法論と能力を身に付けられ、利用者と技術者がコミュニケーションを取り合い、協力して、豊かな世界を追求し、持続可能な社会の未来像をデザインすることが可能になる。環境問題に顕著であるように、周りの人々、ひいては世界や将来の世代まで含めた豊かさを、利用者も技術者も視野に入れる時期が来ている。

誰もが最低限知っておくとよい公約数としての技術リテラシーはそれほど多くはないと考えられる。ただし、本報告書は「必要が生じた時、より深い知識や能力を効率的に獲得できる基盤となるもの」を公約数と想定して議論を進めており、「ここまでが公約数」という線はあえて引いていない。